はじめに
宮本武蔵の『五輪書』――その冒頭を飾る「地の巻」は、こう告げます。
「兵法を修めるには、まず地の理(ことわり)を知れ。」
どれだけ剣の技を磨こうとも、土台が揺らげばすべては崩れる。
だからこそ、まずは「動かぬ地」をしっかりと固めるのだ――。
この教えは、保育においてもまったく同じです。
技術や成果を追う前に、子どもたちの「揺るがぬ心の土台」を育てなければなりません。
今回は、五輪書「地の巻」をヒントに、
「強く、しなやかな心の根っこを育てる保育」について考えていきましょう。
地の巻が教える「動かぬ基盤」
「地の巻」では、まず「型にとらわれず、根本を掴め」という教えが繰り返されます。
武蔵は、形ばかりを真似る剣士を「見せかけの兵法者」と呼び、
基礎を疎かにする者は必ず破れると戒めました。
保育でも同じです。
ひらがなが書けた、逆上がりができた――そんな「見える成果」は、いずれ消えます。
消えないのは、心の奥深くに積み上げられた「安心」と「信頼」の感覚だけです。
だからこそ、保育者は「今すぐ目に見える成長」よりも、
10年後、20年後も揺るがない心の基盤を育てる覚悟が求められます。
保育における「土の巻」実践
では、子どもの揺るがぬ土台をどう育てていけばいいのか?
武蔵の教えを踏まえ、具体的に考えていきましょう。
- 毎日のリズムを「地ならし」する
地ならしなくして、家は建ちません。
同じように、毎日のリズムを整えることが、子どもの心を平らにします。
同じ時間に同じ先生が迎える
決まった順番で身支度をする
繰り返し、失敗してもまたやる
特別なことは必要ありません。
小さな繰り返しが、やがて「ここにいていい」という揺るがぬ感覚を育てます。
- 小さな成功を、静かに積み重ねる
武蔵は、奇をてらうことなく「小事を軽んじず」「千日の稽古を以て鍛とし、万日の稽古を以て錬とす」と説きました。
子どもも同じです。
できたことを大げさに褒める必要はありません。
「できたね」と静かに受け止めるだけでいい。
小さな積み重ねが、やがて大きな自己肯定感となり、誰にも崩せない心の礎となります。
- 失敗を恐れない「不動の心」を育む
剣の道では、失敗を恐れれば刀は鈍る。
保育でも、子どもが転んだり、間違えたりすることを恐れる必要はありません。
むしろ、
失敗しても、先生は受け止めてくれる
やり直しても、変わらず見守ってくれる
という経験こそが、
「失敗しても自分は大丈夫だ」
という揺るがぬ心を育てます。
恐れず挑む子を育てるには、恐れず見守る大人が必要です。
おわりに
『五輪書』地の巻は、私たちにこう語りかけます。
「派手な技を求めるな。
まず、揺るがぬ地を得よ。」
保育も同じです。
すぐに結果を求めず、目に見えない「根っこ」に力を注ぐ。
それが、子どもたちの未来を支える確かな道です。
次回は「水の巻」。
変化を受け入れ、自在に形を変える柔軟な心の育て方について、一緒に探っていきましょう。



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