はじめに
宮本武蔵『五輪書』の第二章、「水の巻」。
ここで武蔵はこう説きます。
「水は方円の器にしたがう。」
水は器の形に合わせ、自在にその姿を変えます。
武蔵は、兵法においても同じように、「型にとらわれず、変化に応じる柔軟さ」が重要だと説きました。
これは、保育にもそのまま当てはまります。
子どもたちも、環境も、常に変わり続けています。
私たち大人も、型にはまらず、しなやかに対応していく力が求められます。
今回は「水の巻」から、
「変化を恐れず、応じる力」をどう保育に生かすか考えていきます。
水の巻が教える「変化に応じる心」
武蔵は、水の特徴をこう表しました。
岩にぶつかれば道を変え、
壺に注がれればその形に従い、
障害物があれば、よけて流れる。
どんな状況でも「自分を壊すことなく」、
形を変えて生き延びる柔軟さこそが強さだ――それが武蔵の考えでした。
保育も同じです。
昨日までのやり方が、今日の子どもには通用しないことがある。
そんなとき、私たちは変化を恐れず、
状況に応じて関わり方や支援を変えていく必要があります。
「しなやかに、しかし芯を持って。」
これが保育に生きる「水の心」です。
保育における「水の巻」実践法
では、どのようにして「水のようなしなやかさ」を保育に活かすのでしょうか。
- 過去にとらわれず、「今」を観る
武蔵は、剣の達人でありながら、固定された型を嫌いました。
「その場の状況を正しく見ること」が何より大事だと説きます。
保育でも、
「この子はこういう子だ」と決めつけない
「昨日はこうだったから」と油断しない
ことが大切です。
「今、この瞬間の子ども」を観る。
昨日と違う姿を見せたら、それに応じて自分の対応も変える。
この柔らかな観察力こそ、しなやかさの土台になります。
- 型にとらわれず、柔らかく対応する
水は、流れに合わせて自在に形を変えます。
剣の型に頼りすぎる者を、武蔵は「敗れる者」と呼びました。
保育でも、
「こうすべきだ」
「こうあるべきだ」
という固定観念に縛られると、
かえって子どもの心から離れてしまうことがあります。
大切なのは、「その子にとって、今、必要な関わりを選ぶこと」。
それが、保育者のしなやかさであり、強さです。
- 変化を受け止め、流れに乗る力を育てる
水は、障害物に出会っても無理に押し返すことはしません。
かわし、道を変えながら、最終的に大きな流れを作ります。
子どもたちにも、「変化に強い心」を育てたい。
思い通りにならないこと
失敗すること
予想外の出来事に出会うこと
これらはすべて、子どもにとって「しなやかさ」を学ぶチャンスです。
例えば、
けんかしても、また仲直りする力
遊びが失敗しても、別の遊びを生み出す力
こうした経験を通して、
「失敗しても、変わっても、また進める」
そんな強さを、子どもたちと一緒に育てていきましょう。
おわりに
『五輪書』水の巻が教えてくれるのは、
「柔らかく、自在に、しかし確かに生きる」という姿勢です。
保育は毎日が変化の連続。
昨日の正解が、今日はもう役に立たないこともある。
だからこそ、
固まらず
流されず
柔らかく、しかししっかりと
子どもたちと一緒に、しなやかに進んでいきましょう。
次回は「火の巻」。
集中と勢い、そして燃え上がる意志について探ります。



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